コロナショックにより、企業活動を継続していくためにはキャッシュ、すなわち現金が必要であることが再認識されています。
企業活動再開後に優先して取り組む施策としては、大企業の22.6%、中小企業の34.0%が「手元資金の準備」を挙げています。
(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料1)
やはり危機時には「キャッシュ・イズ・キング」であることが再認識されるのです。
但し、ここで忘れてはいけないことがあります。 まずは以下の図表をご覧ください。
(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料2)
金融・保険を除く日本企業の保有する現預金はずっと積み上がってきています。すでに240兆円に到達しているのです。
この日本企業の現預金水準は、実は非常に保守的です。以下の図表をご覧ください。
<地域別にみた企業の自己資本比率と現預金比率>
(出所 日銀「金融システムレポート2020年10月」)
流動負債を現預金で割った現預金比率は、 日本企業が6割程度となっていたのに対して、米州・欧州・中東・アフリカの企業とも3割を下回ります。
日本企業はコロナショック前から現預金を貯め込んでいました。コロナ禍においては、この現預金・キャッシュの貯め込みが、企業の安全性・安定性として評価されることはあるでしょう。しかし、日本企業が他国に比べて多い割合のキャッシュを保有していた背景には「日本企業がモノやヒトに投資をしていない」ということがあります。日本企業は投資に消極的だったから、他国よりは財務内容が安定しているのです。
それを如実に表しているのが、金融庁の資料に記載された投資家・企業の声でしょう。
コロナ以後における投資家・企業の声(財務戦略)①
財務戦略については、
・投資家からは、市場の動向を踏まえたバリューチェーンの在り方の見直しを含めた検討が行われるかに注目したい、といった声や、現金の積上げの単純な肯定はキャッシュ創出能力を削ぐ、といった声が聞かれた。
・企業からは、バリューチェーン上の課題が発生している、といった声や、キャッシュ不足の懸念を投資家等から抱かれないように、資本効率に加え安全性も意識する必要がある、といった声が聞かれた。<投資家等>
• 日本企業の競争力発揮という観点からは、今回のコロナ禍で現金を保有していたことが功を奏したというような単純な整理は問題。そうでないと、将来、キャッシュを創出する能力を削いでしまう。中長期的な観点の対応は重要。
• 資本効率を向上させる観点から、どういった資金調達ができるかという選択肢を精査し、危機に備えた対応をすることが重要。
• キャッシュが枯渇しているときに重要になるのは銀行。せっかくデッドガバナンスからエクイティガバナンスへと移行しつつあったところ、再びデッドガバナンス主体に揺り戻されてしまうのではないかということを危惧する。エクイティガバナンスを主軸に捉えながらガバナンス改革を進めることを意識すべき。<企業>
• キャッシュフローの悪化及びコロナの影響により、手元現預金を増やしている。
• 今回のコロナ禍においては、キャッシュ不足の懸念を抱かれないように、銀行与信枠の拡大も行った。
• コロナ後の資本コストへの考え方については、当面は安全性を重視するという流れにシフトするのではないか。コロナ前だと事業売却をした際に必ず投資家から、その資金の活用方法について問われたが、最近はむしろ安全性のことも配慮していることで好評価をもらったと認識。とはいえ、資本コストを意識するROIC 経営は大きな柱であり、引き続き継続していく。
• 手元現金は、リーマンショック級の事態を想定した水準で基準を定めていたが、今回はその水準を超えており、それ以上の手元資金が必要。しかし、やみくもに手元資金を増やすことは避けるべきと考えており、投資とのバランスが重要と認識。このため、どのくらいの水準が適切なのか議論している。
• コスト削減は止血としての政策の面もあるが、成長の芽をなくさないよう投資の原資とする側面もあるとの考えで方針を出している。
• コロナがあったから投資を控えようということではなく、成長投資の機会はタイムリーに逃さないように投資していくべき。
• キャッシュフロー改善のための資産圧縮として、主に政策保有株式や遊休資産の売却に取り組んでいる。(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料1)
投資家は企業がキャッシュを貯め込む行動に走り過ぎることに懸念を示しています。やはり、企業は投資を行わなければじり貧になってしまうのです。
それは企業も分かっているのです。投資と手元資金の安定性とのバランスを取ろうとしているのでしょう。
アフターコロナ、もしくはウィズコロナ時代には、今まで以上に投資と手元資金のバランスが意識されるでしょう。 今からこそ、企業のガバナンスには注目が必要です。